R*Fragments V++

水音がする

水が岩を叩き

留まることなく流れる

水音がする


ゆっくりと瞼を開けると

黒に近い青に散りばめられた光が目に入る


星、遺跡の残滓


ああ、ここは、そうだ

三本の滝から成る愚か者の滝
高地ラノシアのオークウッド北西にあるその滝は
緑の自然と隣接する外地ラノシアのニームの浮遊遺跡の光が微かに空を彩る故に
幻想的でありレベルの高めの魔物はいるが
冒険者たちの観光地としてそこそこ有名なスポットである

眠る愛馬を起こさぬように
燻る焚き火の枝を調整し
再び火を灯す

方方歩き回る冒険者故に
いろいろな景色を見てきたが
息抜きがてら自分が一番好きな場所を探していた結果
最近はここに落ち着きつつあった

元より水が流れる場所、特に滝のある場所が好きで
静かで、幻想的な光のある場所、なんて追加されれば
好きにならないわけもなく

何も考えたくない時や疲れてしまった時に訪れ
変わらず流れる水音を聞きながら
簡易キッチンでお茶を入れ
なんとも言えない滝特有の空気で肺を満たし
そっと息を吐くのがたまらなくいいのだ

「（やっぱり好きだな）」

ポッドのお茶を温め直しながら空を見上げる
焚き火の小さく木の爆ぜる音と凛とした空気の中で輝く星が
心に染み、積もっていくような不思議な気持になる

上手いこと魔物が来れないだろう安息の地を見つけたのは幸いだった

ポッドからコップに注ぎ温度を確認するようにちびちび飲めば
やや甘く味付けしすぎたお茶が
冷えた体にしみわたる

ちかりと着信があったことを告げるリンクシェルを横目に
ひとつため息

３日間

こうして、自分の落ち着くところへ赴き
一人で空を眺めたり写真を撮ってみたり
考え事にふけってみたり

誰かと話すのが無性に辛くなる
誰かと会うのが無性に苦しくなる
苦しくて、どうにかなってしまいそうで
誰かを傷つけてしまいそうで
これ以上どうしていいか分からなくなる

原因は、何となくわかるのだ
眠る度に昔自分を夢に見て
疲れ果てて倒れるように眠るしかない現状
余裕が、消える

夢を見ない薬も完成には遠い
追い込んで追い込んで
迷惑をかけない程度に極限まで
そうして、苦しくなるのだ、人が

飲み干したコップを焚き火のそばに置き
ごろりと草の上で横になる
すぐ近くの川から溢れた水が空を写し
まるで空に包まれてる感覚

いっそこのまま沈んでしまいたい
揺れ移ろう水面に
濃紺に輝き瞬く星空の中に

「そろそろ、帰るか……」

ふと頭に浮かぶのは怒りを超えて静かな顔立ちの友とその声
きっと

「何やってんだ、馬鹿者、さっさと帰って来い」

って、言うに違いな、い…
声は頭の中ではなく後ろから聞こえる

「惚けたツラをして全く、こんな辺鄙なところにいやがって……」

わしっと、頭を掴まれる
いや、そもそも音も気配も感じなかったのだけれども

ぷるぷるしながら彼の顔を見れば案の定
静かな顔立ちである
嵐の前の、静かさだが

「俺にここまで近づかれてもわからないくらい鈍ってる人間が野宿なんてしてるな、攫われるぞ」

「いや、誰にだよ、てか現在進行形だよ」

良く言われるけど攫われないし
そもそもここそんな人来ないし！

なんて言えば気づいていないだけだ
と、返される始末

「セヴェリアンが心配してたぞ、ついでに俺もな…せめて連絡くらい出ろ」

「……ごめん」

小脇に抱えられながら顔を見れば
少しムッとした表情

「明日の３食お前が作れよ」

ぷいと顔を背けられる
こういうたまに起こす行動が子供っぽいなぁと
思ってしまうが口に出すと己が危ないので
心に閉まっておくのだった





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まさかこんなの二ヶ月もかけて…（白目